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泳ぐホタテインタビュー 大船渡・吉浜漁協の漁師、千葉豪さん

取材にご協力いただいた漁師さん

千葉豪(ごう)さん

大船渡・吉浜の地図

岩手県大船渡市の吉浜(よしはま)漁港で、漁師歴10年の千葉さんにお話を伺いました。
吉浜漁港では高品質のホタテが安定的に水揚げされ、若手後継者が漁業を盛り上げています。千葉さんはその中心で活躍するお一人です。
そんな吉浜の今や、漁師に対する想いについて聞かせていただきました。
〈取材日:2019年2月〉

地元を盛り上げる手段が漁師だっただけ。

――東京より地元を選ばれたのは、なぜだったのでしょうか?

オレは次男だから、漁師を継ごうとは思っていなかった。
それよりも自分の生まれたこの吉浜のことが気になっていてね。若い者はみんな地元を出て行ってるし、誰かが盛り上げんといけんだろうという想いが強かった。そのためには都会から仕事とかお金を引っ張ってこれたらいいなと思って、一度は東京へ出たんだ。

高校を出て東京へ就職し、25歳の時に地元へ戻ってきた。
昔から「25歳で戻る」と決めていたから。

昔、吉浜には『キッピンアワビ』を世界一にした有名な人がいてね。地方にいながら世界一のアワビを作って地元に貢献した人。
小さい頃からそれを聞いて育ったから、オレもその人みたいにこの吉浜に何か仕事を持って帰れたらいいな!とずっと思っていた。だから田舎よりも東京の方がいいとは思わなかったね。

田舎には仕事がないとか色々問題もあるだろうけど、 地元に『誇り』に思えるものさえあれば、結局帰ってくるんだろうなと思うよ。オレがそうだったからね。

※キッピンアワビ(別名:吉品干鮑(きっぴんかんぽう))
世界一の干アワビの中でも最高級の食材とされる、吉浜産のアワビ。吉浜の読みをとってキッピンアワビという名称。年末に芸能人の方たちが食べ比べる某TV番組でも2年連続で出品され、お馴染みとなりました。
http://fukko-todai.com/kippin/about.html

漁師 千葉ごうさんと「千歳丸」

――東京から戻られて、すぐに漁師に?

いや、1年くらいネット販売をしていた。

その頃、東京では大量のデータ通信ができるというイーモバイルが、23区限定で入り始めていた時代。地元の吉浜もブロードバンド化がやっと進んでいたから、地元のホタテやワカメなんかをネットで販売したら何とかなるんじゃないか?そうすれば地元の人も潤うんじゃないか?って思ったんだよね。

でも、売り始めてみたものの、全然売れなかった。 現物を見れば他のところよりも品が良いとわかるけど、写真も商品説明も、どこも同じようなものを載せている。下手をすると自分のところよりも上手に撮った写真だったりするから(笑) 
そうなると値段勝負。だけど他のところと岩手のものを同じ値段で売ると全然収入が合わないから、直接市場に出そうかと思ったりして。苦労して安く売っても意味がないからね。
他にも飲食店に直接売ろうと考えたこともあったけど、お店の人に「何が違うの?」って言われても説明できなくてね。

だって、わかんねぇんだもん(笑)
自分で一回やってみねぇとわかんねぇなぁと思った。

だから実家の漁師を手伝ったんだ。 そしたら面白くて。

漁師になって今ちょうど10年だね。

漁師

漁師の魅力は、駆け引きと一体感

――漁師をしていて楽しい瞬間や、魅力を感じるところはどこでしょうか?

まず駆け引きが楽しいね。漁師って毎日が自然との駆け引きだから。
毎年環境も違うし、魚を獲る時期、場所、タイミングなんかも違う。毎回新しいわけだから正解がない。自分の読みを頼りにして船の装備を変えたり、備えたり。 自分が考えた読みが当たると嬉しいよね。
最初の頃は単純作業がつまらないと思ったこともあるけど、それは最初だけ。自分の頭で考えるようになると、すぐに面白くなったよ。

もう一つは、地元のみんなで同じ時期に同じ仕事をして、まとまっているのがいい。その中でいい意味で競争しているところ。 なんていうか、ゲーム的な感覚もあるよね。

漁は一人じゃできない。 高波とか強風雨の時の水揚げは危ないから、沖に出るのは怖い。一人だと何かあった時に助けてくれる人がいないから尚更だけど、そんな時もみんな一緒だから一体感があって心強いし、いい緊張感で気持ちもピリッとするよ。

命に関わる事故はしんどいよね。
太平洋は海溝が深いから波の衝撃も強くて、小船や1人で乗っている人が落ちると気づきにくかったりするし、年寄りも多いし。冬の海に落ちたら15分もすれば意識がなくなって人命に関わることもあるから、それさえなければ漁師をやっていて辛いことはないよ。

みんなで価値の底上げに取り組む。それが吉浜流。

――吉浜では質のいいホタテが安定供給されていますよね。その秘訣は何ですか?

ホタテの水揚げは1槽何枚という枚数制限があって、同じ枚数を作っても水揚げのキロ数には個人差が出る。キロ数が個人の収入にも繋がるから、腕のいい人は生存率を高くしたり1枚のホタテを大きく重くして立派なホタテを作ったりして、お互い良い意味でせめぎ合っている。

ただ、それはそれで楽しいんだけど、出荷する時は全部「吉浜産」として出すわけだから一人だけ良いものを作っても浜としては評価されないわけ。みんなで底上げをしないと「吉浜産ホタテ」の価値はあがらない。だからそういう部分はそれぞれが意識してると思うよ。

ほら、この漁場はごまかしが効かないの(笑)
他の浜へ行くと隣の小屋と仕切られていたりするけど、うちは柱だけしかないから隣が何をやってるか全部見える。どんなホタテを作っているかも丸見え。
みんなで一定の品質を保つために同じように作業をするわけだから、自分だけ変なホタテを作っていたら申し訳がたたない。

年寄りなんかは、ふらっと来て「あっちのホタテはよかったよ~」とか、あちこち話して回るの。それを聞いて「どれどれ・・・」と見に行ったり、 そうやって競争しつつも品質を揃えるためにみんな一緒にやってる感じがちょうどいい。

俺はこっそり他の浜へ手伝いに行っては、そこでいいと思ったことを持ち帰って自分の仕事に取り入れたり、うまくいった技術や知識はみんなと共有してるよ。

ホタテの稚貝を網に入れる作業 この日は稚貝を網に入れる作業が行われていました。 柱の間に2軒づつ区分けされていますが、作業は全体で協力して行うそうです。

ホタテの稚貝を網に入れる作業

――漁協の方とも気さくにお話しされていましたね。

そうだね、 漁協との関係がいいのも吉浜の特徴かな。
ここの漁協と漁師の関係は決して上下関係ではないんだよね。漁協が上で漁師が下でもないし、敵対しているわけでもない。両方が一緒にやっていて、漁協が自分たちを代表して業務を取りまとめているという感じ。例えば漁協でまとめて物を購入するのも役割分担だと思ってる。 課長の家も漁師で、朝は漁を手伝った後に出社していたりするから身近に感じるよね。
地域ごとにその関係性は違うみたいだけど、うまく回っているところはそういう感じなんじゃないかな。

何がいいホタテかは、お客さんが決めること。

――「こんなホタテをつくろう」と意識されていることはありますか?

昔はみんな「大きいホタテをつくろう」とか「水揚げ何キロ!」というのにこだわって単純に船の水揚げ量を目標にしていた気がするなぁ。
1枚あたりが大きくなれば同じ枚数でも水揚げ量が増えて、個人の収入につながるからね。

でも今は、自己満足じゃなくて、買い手が欲しいホタテを作ろうって思うよ。
末端のお客さんがいいと思うホタテが『いいホタテ』で、俺たちはそれをつくろうと思ってる。

ホタテの売り方だって業者さんによって違うから、『いいホタテ』が何かなんて、一概には言えないよね。だって、大きいのがいいの?重いのがいいの?新鮮なの?味?・・・って色々あるでしょ?
何がいいのかを誰が決めるかと言えば、ヤマキイチさんのお客さんが決める。その人たちがいいというホタテを俺たちは作るべき。顧客に買ってもらえるホタテでないと、漁師は業者から買ってもらえないわけだから。
「そのためにこんなホタテが欲しいんだ」と言ってもらえれば、俺たちもやりようがある。
いくら「大きいのがいいよ」って、うちらが言ったとしても、欲しい人がいなければいいホタテじゃないよね。

俺たちは作ることに専念すればいい。

――ヤマキイチさんとは、どのようなきっかけで仲良くなったのですか?

地元の経済同友会の集まりで、たまたま隣に座ったのがきっかけで話すようになったかな。
当然ヤマキイチさんのことは知っていたけど、直接話す機会もなかったし、正直あまり関わりたいとも思っていなくて。(笑)

だって普通はどこもそうだと思うよ。お客さんが買う値段は決まっているわけだから、生産者と中間業者や小売業者は利益の取り合いでしょ。だから関係よくないよね、やっぱり。
「あっちばかり儲けて」とか「いい車乗りやがって」みたいな話はよく聞くしね(笑)

でも、剛一専務の考え方を初めてちゃんと聞いたときに「こんな人がいるんだ!」って思った。 誰かが損をして誰かが儲けるみたいな話じゃなく、適正な値段をつけて売れば、生産者も小売業者もどっちもあがるんだよって。そのために価値を創り出すことを本気で考えているし、実際に取り組みもしていた。
ヤマキイチさんと話すまでそれに気づかなかったんだよね。

昔自分もチャレンジして、その時に片手間にできることではないなと実感したことを、まさにヤマキイチさんがやってくれていた。

『売る』というのは実際にモノを送って終わりじゃなくて、信頼関係を築きあげていく仕事だと思ってる。 それはもう、俺たちの範疇を超えた仕事じゃないかなぁ。
俺たちは作ることに集中して品質の良いものをつくるから、お客さんとの信頼関係をつくるのはプロに任せようって。
ヤマキイチさんの事務所に壁一面に貼られた手紙を見た時に、そう思った。

千葉さん(左)と君ヶ洞専務(右)

君ヶ洞専務と一緒にテレビ取材で東京都内の一流レストランへ同行していただいた様子
(TV朝日「食彩の王国」第734回・2018年放映にて)

漁師という未来。

――吉浜は、若い漁師さんが多いですね。

この大船渡陸前高田は、ここ10年~20年は増加しているね。
三陸全体では下がっているのに、大船渡だけ増加している理由はわからないけど。

北海道の猿払が“ホタテバブル”みたいになって収入が増えて、若い人たちが帰ってきたという話があってね。長男だけじゃなく次男まで帰ってくるっていうから、最初はオレも収入なのかと思っていたんだけど、帰ってきた人たちの話を聞いたら特別収入が多いわけでもない。
今の20代の人ってお金に執着とかこだわりがないんだよね。
車が欲しいわけでもないし、必要な分だけあればいいっていう意識。
だから若い人が増えている理由は、収入だけじゃないのでは?と思うようになった。

漁師

そう考えたら、吉浜の場合は選択肢があるというのが1つの理由かもしれない。
ホタテだけじゃなくてワカメもつくれるし、やろうと思えば定置網もある。刺網して魚もタコも獲れる。多様性があるから自分に合った漁のやり方が選べる場所なのかも。

例えば、養う家族がいなくて仕事を沢山したくなければ、ホタテだけつくっていればいいし、もう少し収入が必要ならワカメもやればいい。
ワカメだって、生で出荷する人もいれば塩蔵加工までする人もいるよ。
生で出荷する人は朝海に出て午前中で終わるから、収入が多くない代わりに自由になる時間が多い。塩蔵加工までする人は、水揚げから出荷までする。夜までずっと働くし労力が必要だから人も雇う。大変だけど収入はいい。

吉浜の場合は、そういう個々に合った働き方の選択肢があると思う。

――千葉さんご自身が、これからやりたいことはありますか?

オレは、もっと収入を増やしたいとかそういう夢はないんだ。
それなりに収入があって、仲間で共生しながらも競争しあって楽しいっていう今の状態がずっと続けられたらいい。

ただ今は、後継者のいる人が半分もいないのが現状だよね。
ここの若手は婿で来た人や、魚を獲っていた人が養殖に転向したりした人。漁場はもう空きがないからよそからの新規参入の制限もしているし、これから高齢化が進んで漁師が減らなければいいなと思う。
漁師を辞める人の船や設備を譲り受けて後を繋いでいくこともあるよ。

そういえば、今年は高校を卒業して漁師になりたいっていう子たちもいるらしいから、譲り受けるんじゃないかな。船は買うと高いし設備やお金もかかるからね。

どちらにしても、仕事が魅力的じゃないとそうやって入ってくる人もいないもんね。
放っておいたら減る一方だから、そうならないように頑張らなくては。

俺も今10年。10年て考えたら大したことないな。
もっとできると思う。この先もずっと漁師やってると思うよ。

漁師

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