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泳ぐホタテインタビュー 釜石市平田の漁師 久保さん

取材にご協力いただいた漁師さん

久保勝信さんご夫婦

釜石市平太地区の地図

岩手県釜石市平田(へいた)地区に住む、漁師歴50年の久保さんご夫婦に話をお聞きしました。現在は、息子の勝幸さん(漁師歴20年)と3人で、ホタテ・ウニ・アワビ漁を営まれています。
その中でも特に、ウニの品質は群を抜いており、久保さんといえばウニ漁では右に出るものはいません。人生をかけて漁に挑む久保さんご一家に、こだわりや技と知恵についてお尋ねしました。
〈取材日:2019年2月。インタビュアー:君ヶ洞秀綱店長〉

ウニ名人といえば、勝信さん。

秀綱店長
この平田地区だけでなく、いろいろなところでウニを見てきた中でも勝信さんが獲るウニは、 身が大きく色がきれいで本当に品質がいいです。他の浜でもこれほどの品質はそうそういません。 自分もウニ漁をしますが、足元にも及ばないです。

実は最初「ウニなんて誰でも獲れっぺ」なんて思っていたのですが、予想とは全然違い獲っても身が入っていなかったりして全然うまく獲れなくて(笑)
それで、この浜で誰もが認める勝信さんにお話を聞けば、自分も少しは上達するんじゃないかと思って漁にも連れて行ってもらい話を聞いたことがあります。

でも聞いてできるものではないですね。それがわかっただけでも勉強になりました。

――勝信さんは、どれくらい前から漁をされているのでしょうか?

漁師の久保さん

勝信さん:
ウニ漁は中学校を出てからだから、もう50年以上になるかな。
うちは兄貴も漁師で、俺は3番目。親父は大きい船で沖に出てあわびをとって、俺たちは小さい船で途中の浜でとるのを覚えたんだ。
最初は手伝いから始めたんだけど、 小学校の頃から「おれは会社勤めも向いていないし兄貴と一緒に海に出よう」と思っていたのよ。

――現在はホタテ・ウニ・あわびを主に獲っていらっしゃいますね。
他にはどんな漁をされてきたのでしょうか。一番楽しかったものはありましたか?

勝信さん:
うーん、、いや、どれが楽しいとかじゃないなぁ。生活のために何でも獲ってきた。
まず、(奥様と)一緒になってからは、家のことには何もタッチしないで仕事一筋。
俺が漁師になった頃は、年輩の人が多くてみんなライバルだったから、一生懸命だ。
俺は、ウニでもあわびでも何でも、「とにかく人よりもたくさん獲って1番になりたい」って思うのよ。

幸子さん:
それだけ腕もあったし、目もよかったからねぇ。
子供がちっちゃい時には、タコをとってきたりツブをとったり、それを家で煮て市場に持って行ったり、いろんなことをしたよね。

勝信さん:
そだな。結婚した頃は、結構ひまなくいろんな仕事してたな。

漁師の久保さん

量より質。
目・腕・頭を使って、中身で勝負。

――あわびとホタテもいいのを獲られますが、
やはりウニは特に、とにかく身がいい!

秀綱店長:
波が荒くてみんなが獲れない日でも、勝信さんだけが獲って帰ってきますよね。
慣れるとみんな見切りが早くなってしまうものなんですが、勝信さんは最後まで諦めない。 それがすごいです。
その精神力はどこからくるのかと思いますよ。その精神力も全部結果につながっているのでしょうね。ウニのいる場所や習性まですべて知り尽くしている、というのもあると思いますけれど。

幸子さん:
「勝信さんの行ったあとは何にもない。掃除機をかけられたみたいだ。」
って言ってる人もいるよね(笑)

―― その秘訣は、何でしょうか?

勝信さん:
そうだな。順序があるのよ。

冬場11月~12月まではアワビの季節で、 海藻がなくなるからウニでもアワビでもよく見える。 だから12月中に浜の岩とウニのいる場所を全部覚えておくの。
夏になると海藻が増えるから、ウニは昆布の下に隠れて見えなくなる。普通の人は「ここには何もない」と思って通り過ぎるけど、俺は冬場に覚えておいた場所に行って、昆布をよけてウニを獲るのさ。

漁は頭で考えて、かけひきするもの。目・腕・頭の3つが必要なんだよね。

前日から、よその人がどこで獲るのかを予測して場所を考える。
ただ別の人が獲っていた場所にあとから行っても、俺の方がたくさん獲る自信もあるのね。

それが腕だ。
そこにいるとわかっていても、いくら体格が良くても力があっても、竿をうまく動かせないとだめだから。(ウニ漁では、鏡をのぞき込んで竿を動かしながら獲ります)

岩場にこう、突き当たったところでポンと動かすようにして、やさしくすくって竿でとらないと。力を入れないで。コロコロとどこまでも竿をつけていって岩の壁にぶつけて獲るやり方もあるけど、それだけでもないわけ。

技術だな。

漁師の久保さん

秀綱店長:
自分も平らなところだと岩と挟みうちにして獲りますけど、平らな岩ばかりではないので、網が引っかかったり、ウニが獲れないような隙間に入りこんでしまったりあります。
口で言うほど簡単ではないですよね、体で覚えないと。
それに、数をたくさん獲ればいいと言うわけでもないですもんね。

勝信さん:
そうだな。ここ(釜石漁港)は、1回で獲る量は黄色いカゴ1つというのが決まりだ。
制限時間が来るか、カゴがいっぱいになれば終わり。

みんなは奥の深場の方さ、海藻のないところに行って獲るでしょ。だからカゴがいっぱいになるのは早いけど、みんなが2キロ獲る間に、うちは5キロ獲る感じ。
俺は2キロとっても面白くないもんで・・・だって、5キロとった方がいいよねぇ(笑)

秀綱店長:
勝信さんは海藻のあるところばかり歩いていますもんね。
海藻が多い場所にいるということは、餌をいっぱい食べている証拠なので、
当然、割った時の中身が全然違う。

勝信さん:
そう。 それに階層が多いところにいるウニは身入りだけでなくて身の色も違う。
昆布を食べてるのと、わかめのメカブや茎葉なんか食べてるのとでは、やっぱり昆布を食べたウニの方が、身の色がきれいなのよ。

並べ方ひとつにしても時間をかけてでも隙間なく並べるのよ。そうするとカゴにたくさん入るから。

うに漁の様子

釜石湾では、6月下旬~7月下旬ごろにかけて、週2日、早朝の4時間だけウニ漁が解禁されます。その時間になると一斉に船を出し、各々の漁場へ向かいます。
天候次第では、漁に出ることができず水揚げゼロの日もあります。一回一回が本気の勝負です。

――殻をあける前に、身が入っているかどうか、わかるのでしょうか?

秀綱店長:
普通は、殻をあける前に身が入っているかなんて、わからないです。
でも、勝信さんはわかるんでしょうね(笑)

勝信さん:
自信あるのね。 最初から、海藻のある場所のウニしか獲ってねぇから。

秀綱店長:
僕らなんか、それがわからないから、船の上で身を割ってみますけど。

勝信さん:
うちの場合はほとんど割んねぇ。
それと、見た目で言えば、ツノの張り具合が違うの。白の場合は、ツノが短い方が岩の隙間にいて近くにある海藻を食べて成長するから、身がいっぱい詰まっている。ツノの長いのは穴の狭いところにいないからツノが長くなって痩せたウニになんのよね。

キタムラサキウニとバフンウニ

※岩手では、キタムラサキウニを「白(シロ)」、バフンウニを「赤(アカ)」。ウニのことを「風(カゼ)」と呼びます。

秀綱店長:
俺なんか、そこまで全然見れていないっすよ(笑)
制限時間もありますからね。待ったなしだからそんな余裕ないです。
九割五分、みんなもそうじゃないですか(笑)

勝信さん:
少し競ってくる人が何人かいるけど、経験が長くなればなるほど、いいものを水揚げするようになる。
息子も俺に似ていい場所のウニを獲るの。深場は獲らないで海藻の多いところをね。

――息子さんに受け継がれているのですね。
やはり一緒に漁に出て教えたりされたのでしょうか?

勝信さん:
息子とは最初の何回かしか一緒に漁にでてないなぁ。あんまり細かく言わねんだ。
俺もほとんど上の人のやり方を見て覚えたからね。

幸子さん:
うん。この人は全然手取り足取り教えないからねぇ。
あわび漁の時もお風呂場さ行って、「こうこうこう…。(身振り手振り)」ってただそれだけで、「あとは自分で見て覚えろ」っていうタイプ(笑)

「現代の人はそういうことさ言ってもわからないんだよ」って、私は言うんだけど。
まぁ、息子はなんとかものになって。

秀綱店長:
一緒に剥くのがいい勉強になったのかもしれないですね。
親父が獲ってくる身は凄いなとか、どうすればこんなウニが獲れるのか、とか目の当たりにできますから。「親父に負けられない」って思いますもんね。

家族全員で身づくりをしている

殻割り、身の取り出し、ワタとりの様子

バフンウニの身

久保さんのご一家はいつもご家族で一緒に身を剥いていらっしゃいます。後継者が少なくなった今、この浜では珍しい光景になりました。
今ではスラスターという船を漕ぐ機械が普及したため、勝信さんと勝幸さんは別々に漁に出ます。その間、奥様の幸子さんは丘で準備をし、2人が戻ってきたらすぐ動けるように段取りをして待っています。

漁協に持っていくと良い身だけが買い取られ、その重量で稼ぎが決まります。
選別作業ではじめから悪い身を省いて持ち込みます。
※個人の水揚げ高は、他の人には発表されません。

後継者がいるから、小さいものは次に残す

勝信さん:
いまはさ、海の中が変わってしまったでしょ。
ここ2~3年は白も赤(バフンウニ)も少なくなってきて、ちょっと長持ちしないんでないかなと思う。

幸子さん:
赤も減ったねぇ。うちはほとんど赤だったんだもの。
赤はツノが短いから同じ1カゴでも個数がたくさん入るし、値段もいい。剥きやすくてワタもとりやすいから仕上げも簡単なの。

秀綱店長:
赤(バフンウニ)は、白(キタムラサキウニ)に比べてふつうは身が小さいんです。
でも勝信さんのは大きいびっくりしましたよ。

勝信さん:
うちの場合は来年に残すっていう頭があるから、小さいのは海に投げるのね。
だからうちは大きいのしかとんねぇのさ。来年なくなるから。来年さ残せば出荷できるくらい大きくなるの。

だども、いくら自分が残しても次の人が獲ってしまうこともある。獲ったものはゴミでも何でも入れて、とにかくカゴいっぱいにして早く帰りたいという人もいるから。

秀綱店長:
大きくなるまでに、ウニは2~3年、あわびは4~5年かかります。あわびも9cmないものは売り物にはならないので海に返して、大きくなってから獲りますもんね。

勝信さん:
そうなんだよね。うちは、ウニもあわびも「小さいのは海へ投げろ、投げろ」っていうの。 大きくなるまで育てるっていうことをしていかねば、ものがなくなって、後が続かなくなってしまう。

うちは息子がいるから来年に残すという頭があるけど、40代~50代の人は後継者がいないから、後に残すという頭がない。60代の人も多いしね。逃げ切りだと思うのかもなぁ。

でも、それではダメだ。

ほんとは「俺はこうやっていきてぇ」っていう気概をもった次の世代がバンバンバンでてくればいいと思うよ。そういう若い人が出てくれば、それに対しては何でも教えてやりたいんだけどな。

息子には教えなかったけど、人にはちゃんと教えるよ。(笑)

* P2.『あわびもホタテも、目指すは1番!』へ

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